経営者のためのマインドフルネス③―導入のポイントは「上流から浸透」「共通言語づくり」

対談
2024.10.25
経営者のためのマインドフルネス③―導入のポイントは「上流から浸透」「共通言語づくり」

イノヴィスタ 代表の岩﨑です。

忙しすぎる中小企業経営者の皆様に、「一歩立ち止まって自分を見つめる機会を作ってほしい」という想いから、マインドフルネスについて浄土宗光琳寺 住職・井上広法さんにお話を伺っています。

井上さんは創建600年の光琳寺の住職をつとめ、2016年にはマインドフルネスを基盤としたベンチャー企業を設立し、ANA・メルカリ・JTなどの企業でマインドフルネスを伝えています。

第1回は、マインドフルネスの定義・いま注目されている理由・中小企業経営者にとっての効果、第2回はマインドフルリスニング・マインドフルネス導入後の効果やデータ・具体的な事例を紹介しました。最終回の第3回目は、マインドフルネスの導入・実践方法、導入時のポイント、井上さんの今後の展望を紹介します。

マインドフルネスを取り入れたい、組織に定着させたい方はぜひご覧ください。

導入は、組織文化に合わせた「共通言語」づくりがポイント

岩﨑:マインドフルネスの導入や実践について教えてください。中小企業経営者自身がマインドフルネスを導入する際、どんなことを重視すべきでしょうか。

井上:経営者であれば、先ほどお話したマルイグループさんのように「会社全体を変えよう」「会社のあり方を変えよう」くらいのモチベーションがあったら最高ですね。ちょっとかじってみようかな程度では何も変わらないと思います。

ただ、こんなケースもあります。アメリカの自動車メーカー・フォードの事例です。

フォードの場合は「会社全体を変えよう」が起点ではなく、社長自身が長年瞑想をやっていたことが起点になって、それがトップダウンで組織全体に伝わり、マインドフルネスが定着しました。フォードは歴史のある大手自動車メーカーで組織体質はかなり堅いそうですが、そんな組織でも浸透していったんですね。

そう考えると、中小企業経営者の場合は、まず自分自身がマインドフルネスを徹底的にやることから始めても良いかもしれません。中小企業は、社長の人柄や考え方に共感した人が集まっているので、社長が徹底的に取り組んで「マインドフルネスはいいよ」と周囲に発信すれば、組織全体に浸透する可能性は高いと思います。

1ヶ月とか3ヶ月でも良いので、短期集中でやってみて、マインドフルネスの効果を体で感じてから組織に落とし込むかを検討すると良いのではないでしょうか。

岩﨑:そのとき、最初から組織全体の導入を意識した方が良いのでしょうか?

井上:最初から意識する必要はなく、まず経営者自身がマインドフルネスを経験して、効果実感をしたら幹部に落とし込む。幹部に浸透したら各セクションに落とし込む、というフローで良いと思います。むしろ上流から固めていった方が良いですね。

下流から始めて末端組織が変化したとしても、上流の一言で全部壊れる可能性ってありますよね。せっかく築いてきたカルチャーが「何で立ち止まってボーっとしてるんだ」と言われてしまったら身も蓋もないので。上流にいる人達が、立ち止まっていいんだと下の組織に示すことが大切だと思います。

岩﨑:確かに、上流から「立ち止まるのはいいことだ」と示すことは重要ですね。では、組織全体でマインドフルネスを導入する際に大切にするポイントは何でしょうか?

井上:組織ごとに、共通言語を作ってしまうのがおすすめです。

例えばGoogleの場合は、マインドフルネスという言葉を使わずに『SIY』という言葉を独自に作りました。SIYは『Search Inside Yourself』の頭文字です。Googleの事業であるサーチエンジンをもじって、「これはあなた自身の内側を探るプログラムです」という意味を持たせることで、会社の共通言語にしたんですね。インテルも同じように『Wake up Intel』、インテルの目覚めという共通言語を作って瞑想を導入しています。

会社やコミュニティの共通言語になっていれば、マインドフルネスや瞑想という言葉にとらわれなくてもいいんです。例えば「しっかりラジオ体操をやる」が浸透している組織なら、ラジオ体操自体がマインドフルに体を動かす要素になります。剣道や柔道では、稽古のはじめと終わりに1分程度じっとする“黙想”という時間があるそうですが、その時間もマインドフルネスかもしれないですね。

小学校の例ですと、朝礼の前に「リツヨウーー!」と校内放送で流れる学校があります。最初にこの話を聞いたとき、「リツヨウ」が何か分からなかったのですが、「立つ」に「腰」と書いてリツヨウと読むそうです。「立腰」と号令がかかると、子供たちがみんな姿勢を正して1分間集中するんです。これもマインドフルな時間です。

岩﨑:なるほど。その組織の文化に合った行動パターンと共通言語があれば、浸透しやすそうですね。ちなみに、「導入したいけど忙しいから出来ないな…」という経営者もいると思うんですが、時間や労力をかけずに成果を出す方法はありますか?

井上:そんなこと言われても難しいよと言われそうですが、Googleの社員もやっていることですからね。世界中でトップクラスに忙しい人たちがやっている以上は、やらない理由はないと思います。

理想は15分です。「15分も」って思うかもしれませんが、15分って1日24時間の1%なんです、たった1%。この1%を変えるだけで残りの99%を変えていく可能性があります。睡眠の質さえも。

岩崎:おすすめの時間帯やタイミングはありますか?朝が良いのか、夜が良いのか など。

井上:いちばん良いのは朝の始業時です。他の従業員もいれば一緒にやっても良いですね。始業時にラジオ体操をやる会社であれば、それがマインドフルネスの時間になっているかもしれません。

あとは、ミーティングの境目ですね。13時からミーティング、14時からまた別のミーティング、というスケジュールだと、なかなか境目がなかったりしませんか?

例えばGoogleの場合は、週に1回、昼間の時間帯に瞑想の時間を設けています。『ジーポーズ(G pause)』と言って、ポーズは一時停止の意味ですね。仕事の合間に一時停止して、マインドフルな状態になる、そんなカルチャーがあります。

岩崎:朝や夜だけでなく、日中の時間帯でも使えるということですね。

マインドフルネス×コーチングで「自己との対話」を深められる

岩﨑:私は今、中小企業経営者向けにエグゼクティブコーチングを行っているのですが、マインドフルネスとの親和性はあると思いますか?

井上:ありまくりですよ。コーチングを受けるとき、何かしら自分でゴール設定をするはずなので、そのときに自分を見つめる・自分を認識する・自分を受け入れる作業はあってしかるべきじゃないですか。

岩﨑さんのエグゼクティブコーチングの効果を最大化するのであれば、マインドフルネスを並行して導入してもらって、キャンプに行ったような気持ちで徹底的に自分との対峙をするのがいちばん良いと思います。

岩﨑:そうですよね。並行して導入する場合は、コーチングを始める前に2人でやってみるのが良いですか?

井上:それでも良いですし、またはコーチングセッションの間に、1回か2回くらいマインドフルネスのセッションも受けていただいて、一度立ち止まって自分自身を見つめる習慣を身につけてもらうのも良いと思います。そして、岩﨑さんとのコーチングセッションのときに、岩﨑さんから「じゃあ1分間マインドフルになりましょう」と投げかけられるようになります。

コーチングセッション中に行き詰まってしまったら、「3分間立ち止まってみましょうか」と折り混ぜることもできますね。

岩﨑:今日お話を伺って、マインドフルネスを自分自身も使えるなぁと強く感じました。コーチングをするとき、必ずその前にマインドセットするんです。コーチングのコアコンピテンシーを、自分の頭の中に叩き込んでから始めるのをルーティンにしています。このマインドセットをマインドフルネスでやると、よりよくなるだろうなと思います。

井上:そうですね。マインドフルネスは食べる・聞く・歩く、あらゆる行動をより深く体感できるようにしてくれる心の準備体操みたいなところがあります。何かを始める前にいったん棚卸しをして、今背負っている荷物をおろして、今はこのコーチングに全力で意識を向けよう、という意識の方向付けに役に立ちますね。

地方・中小企業にマインドフルネスを届けたい

岩﨑:井上住職の今後の展望や、新しい取り組みがあったら教えていただけますか?

井上:私はANA、三菱地所、伊藤忠商事など日本を代表する会社を中心にマインドフルネスを展開してきましたが、今後は地方や中小企業の方々にこそマインドフルネスを広げたいと思っています。

Googleで始まった文化を日本の大企業に取り入れた私が、その内容を直接届ければ、マインドフルネスの定義だけでなく、導入企業の中に流れている空気感、トレンド、生み出される価値観なども合わせて、隅々まで届けられるんじゃないかと思います。

あと、きちんとした営業資料や、研修やセッションのパッケージを作ろうと考えています。漠然と「我々はマインドフルネス研修をできますよ」と伝えるのではなく、Aコース・Bコース・Cコースを作り、それぞれのコースで何が出来るかを伝えられるようにしたいなと。もちろん岩﨑さんともご一緒できたらと思っています。

岩﨑:パッケージがあるとお客様に伝えやすいのでありがたいです。では最後に、井上住職から中小企業の経営者に向けてメッセージをお願いします。

井上:私も中小企業経営者みたいなものなので、皆さんの仲間だと思っています。経営者であれば先行きが見えなくて不安になったり、未来を想像して悩んだりすることはありますが、そんな方にこそ、立ち止まる時間を提供したいです。

立ち止まることで新しく視野が開けるかもしれないし、立ち止まることが今いちばん大切なことかもしれないので、一緒に立ち止まっていけたらと思います。

岩﨑:今日のこの時間は、「立ち止まる」がキーワードだった気がします。

井上:特に地方の企業ですと、エグゼクティブだけじゃなく、工場の生産ラインの方々にも立ち止まる時間があると良いですね。生産ラインの方々は作業を止めるのが難しいですから。

「毎日同じことをやっているけど、本当はもっと改善したいな」と現場が感じていることはあるはずなので、1回立ち止まって「このラインのやり方は◯◯だけど、▢▢の方がいいよね」など現場の声を吸い上げることも大切だと思います。

岩﨑:本日はどうもありがとうございました。

お話を聞いた方:井上広法さん(Kobo Inoue)

浄土宗光琳寺 住職
宇都宮共和大学非常勤講師/株式会社TANEBI 取締役


創建600年の光琳寺を拠点に、「ともにいきぬく」をミッションに掲げ、ひとづくり、緑づくり、まちづくりを目指している。2016年には、マインドフルネスを基盤としたベンチャー企業を設立。ビジネスパーソン向けプログラム「cocokuri」をスタートアップし、ANA、メルカリ、JTなどの企業でマインドフルネスを伝えている。

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