社外取締役から見た、「組織の再構築」と「思いやり」

2024.07.19
社外取締役から見た、「組織の再構築」と「思いやり」

innovista代表の岩﨑です。

7月から、ある中堅企業の社外取締役に就任することになりました。クライアント企業とのやりとりを通じて、「思いやり」が組織の根幹を支える重要な要素だと強く実感しました。今回は、その洞察をブログとしてまとめます。

以下のような課題をお持ちの中小企業経営者の皆様は、ぜひご一読ください。
・事業承継に悩む創業社長
・先代との関係性で苦心する2代目、3代目の社長
・後継者や現経営陣に不信感を抱く経営者

創業者の悩みは『組織の統制と不易流行』

6月ごろ、某会社(クライアント企業)の社外取締役として組織の立て直しに協力してほしいとの依頼を受けました。クライアント企業の創業者は他者への配慮や思いやりが深く、その人柄が長年会社の礎となってきたことが伝わってきます。

クライアント企業は約130名の社員を擁する中堅企業で、8名の役員と13の部署で構成されています。部署間の連携はあるものの、その度合いにムラがあり、組織全体の一体感や情報流通に課題が見られます。

依頼の背景には、役員が自分の業務だけに集中し、会社全体への関心、配慮が見られないという懸念があるようです。創業者は、現状の組織体制では組織の統制が十分に取れない、そして変わってはいけないことまで変わってしまうという問題意識を持っています。日々の業務運営や意思決定プロセスにおいて、組織の一体感が失われつつあり、部門間の連携にも綻びが見え始めています。

加えて、人材育成方法の再考も急務です。創業者は長年、自身の経験と知恵を基に役員や社員の育成に尽力してきました。しかし、急速に変化する現代のビジネス環境において、従来の育成方法では十分な効果が得られなくなってきていると感じています。

役員に関しては、以下の課題が浮き彫りになっています:

責任感の欠如】
クレーム対応やリスク管理など重要な局面で、自身の責務として真摯に向き合う姿勢が不足し、「他人事」のように捉えている。

【情報共有の不足
組織全体への情報伝達や、役員間での重要事項の共有が不十分。各役員が自ら積極的に情報を収集しようとする姿勢も乏しく、組織の現状や課題に対する関心が低い。

洞察力と俯瞰能力の不足】
問題を表面的にしか見ておらず、その根本原因や長期的な影響を俯瞰し、組織全体で解決する視点が欠けている。

自律性の欠如】
自らの役割や責任を十分に理解せず、ただ与えられた業務をこなすだけの者もいる。顧客ニーズや自社の付加価値についての深い理解も乏しい。

創業者との対話を通じて、不易流行の概念を踏まえつつ、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を明確にし、それを役員から社員まで浸透させる仕組みが必要だと感じました。

私への期待の核心は「組織統制の回復と強化」にあります。社長をはじめとする役員陣の経営能力を向上させ、組織全体を効果的にリードできる体制(グッドサイクル)の構築が求められています。

これには、自己認識の向上、戦略的思考力の養成、リーダーシップスキルの向上、そして何より「不易流行」の概念に基づいた経営判断力の醸成が含まれます。

「思いやり」が導く新しい組織づくり

創業者との対話を重ね、また組織づくりの軸を模索する中で、「思いやり」という言葉が浮かび上がりました。そこで、「思いやりのある組織づくり」をテーマに提案書を作成することにしました。

自律自走する組織、そしてみんながイキイキ働く組織をつくることが私の使命ですが、「思いやり」のある組織は、この使命を包括し、さらに人間性にフォーカスするものです。これこそがクライアント企業の創業者が志向するものであると強く感じました。

「思いやり」のある組織には、以下のようなメリットがあると考えています。

社員のエンゲージメント向上
思いやりのある職場環境は、社員同士の感情的なつながりを強化します。社員の情熱とモチベーションを高め、生産性と業績の向上につながります。

生産性向上】
社員同士が協力し合い、助け合う文化が醸成され、業務効率が向上し、生産性が大幅に改善されます。

信頼関係のある組織文化の形成】
思いやりのある行動が社員間の信頼関係を強化します。これがチームワークを促進し、効果的なコミュニケーションを可能にします。

顧客満足度の向上】
思いやりのある行動が顧客対応の質を向上させ、顧客満足度と信頼性が高まり、ブランドの強みとなります。

持続可能な成長】
思いやりのある組織は社員の定着率を高め、採用でも優位性を発揮します。長期的な成長を支える基盤が強化されます。

外部の視点が新しい風を入れる。社外取締役の役割と挑戦

組織文化の再定義と浸透も重要な任務です。会社の根幹を成す「変わらないもの(不易)」と、時代に応じて「変化すべきもの(流行)」を明確に区別し、全社員が深く理解し、日々の業務に反映できるようにすることが求められています。

現状では、この区別が曖昧で、結果として組織の方向性が不明確になっています。

さらに、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の再構築も重要課題です。会社の存在意義、目指すべき未来像、大切にすべき価値観を現代の文脈に沿って再定義し、明確に言語化する必要があります。

特に、創業者が最も大切にしている「思いやり」の精神を、いかにMVVの中心に据えるかが重要なポイントとなります。再定義されたMVVを組織の隅々まで浸透させ、日々の業務や判断の基準として機能させるためのプロセス設計と実行も求められています。

これには、継続的な教育プログラムの実施、評価制度の見直し、社内コミュニケーションの活性化など、多面的なアプローチが必要でしょう。

創業者は、これらの課題に対して自身だけでは対応に限界を感じており、外部の視点と専門知識を持つ私に、新たな風を吹き込むことを期待しています。

私は創業者の「思いやり」の精神を尊重しつつ、現代のビジネス環境に適応した形で組織を再構築していくという、非常にやりがいのある挑戦だと認識しています。

まず、役員会への出席や社長・役員との1on1を通じて現状把握を行い、社長・役員のコーチング(自己認識を高める)およびリーダーシップ研修を実施します。並行してMVVの言語化に向けたヒアリングも行います。特に、役員が「不易」と「流行」の区別ができるように言語化していくことを優先的に進めていきます。

私の目標は、経営者のコーチングや組織開発を通じて、イキイキと働く組織づくりに貢献することです。そして、その裏にある本質的な目的は、経営者や社員の人間力を向上させ、「愛」と「仁」を体現する人材を増やすことにあります。今回提案した「思いやり」のある組織づくりは、まさに私が本来追求したかったことだと強く感じています。

これから社外取締役として、このプロジェクトを成功させ、より多くの企業に届けられるよう尽力していきます。「思いやり」を軸とした組織づくりが、企業の持続的な成長と社会貢献につながると信じ、一歩一歩前進して参ります。