経営者のためのマインドフルネス②―生産性30%、創造性300%向上。データが示す導入効果と事例

対談
2024.07.11
経営者のためのマインドフルネス②―生産性30%、創造性300%向上。データが示す導入効果と事例

イノヴィスタ 代表の岩﨑です。

忙しすぎる中小企業経営者の皆様に、「一歩立ち止まって自分を見つめる機会を作ってほしい」という想いから、マインドフルネスについて浄土宗光琳寺 住職・井上広法さんにお話を伺っています。

井上さんは創建600年の光琳寺の住職をつとめ、2016年にはマインドフルネスを基盤としたベンチャー企業を設立し、ANA・メルカリ・JTなどの企業でマインドフルネスを伝えています。

前回は、マインドフルネスの定義・いま注目されている理由・中小企業経営者にとっての効果を紹介しました。第2回目は、マインドフルリスニング・マインドフルネス導入後の効果やデータ・具体的な事例について紹介します。

組織内のコミュニケーションを改善したい方、社員の生産性や幸福度を高めたい方はご覧ください。

傾聴よりも深い聞き方「マインドフルリスニング」を体験してみよう

井上:ではマインドフルリスニングをやってみましょう。今から私がアプリから鐘の音を鳴らします。段々音が小さくなるので、聞こえなくなったら手を挙げてください。

(鐘の音を鳴らす)

(段々音が小さくなる)

(岩﨑が手を挙げる)

井上:これがマインドフルリスニングです。

普段私たちは、色々な音を同時に聞いていますよね。それを、ひとつの音だけに意識を向けて、その音を100%受け入れてみるんです。そのとき、「これは良い音だな」とか「これは何ていうアプリ名なのかな」という思考を挟まずに、頷きや反応もせずに、ただ純粋に音だけを聞きます。

私はよくセミナーで「このくらい意識を向けて奥様のお話を聞いたことはありますか?」「部下の話を聞いたことはありますか?」と質問するのですが、「ある」と答える方はいらっしゃらないですね。

皆さん頭の中で「あーあ、面倒だなぁ」「この話何回目だよ」「今忙しいから後にしてほしいな」「早く終わらないかな」「何て返事しようかな」と考えています。でも、今は鐘の音を聞いてる時には考えなかったですよね。

ちなみに、これを実際のコミュニケーションに落とし込むワークがあります。普段とマインドフルな状態を分かりやすくするために、いつも以上に雑な聞き方と、いつも以上に丁寧な聞き方を代わりばんこにやって、丁寧な聞き方はどうでしたか?をお互いにシェアします。

このワークの面白いところは、2人ではなく3人でやること。2人のやりとりを見ている“第三者”を置くんです。聞き手は、前半はマインドレスに(雑な聞き方で)聞きます。例えば岩﨑さんが話し手で私が聞き手だったら、岩﨑さんが私に一生懸命話していたとしても、私は岩﨑さんを見ずにスマホを触り、誰かにLINEを返信している・・・というのがマインドレスな聞き方です。合図をしたら、後半はスマホを置いてマインドフルに(丁寧に)聞きます。そうすると顔の向きも目の向きも変わりますよね。

マインドレス・マインドフル を両方行った後にどう感じたかをお互いシェアするのですが、話し手が「後半は安心して話せた」と言うのはもちろん、第三者の人も「スマホばかり見ていて、人の話を聞いておらず、喧嘩でも起こるんじゃないかとヒヤヒヤしました。でも、後半はスマホを置いてしっかり話を聞いていたので、すごく安心しました」と言うんですね。

ここから分かるのは、誰かと誰かの会話は、その2人の関係だけではなく周辺の人にも影響するということです。話を聞く態度がマインドフルであれば、当事者同士だけじゃなくてまわりにも安心感を与えます。最近、心理的安全性という言葉をよく耳にしますが、話を聞いてくれる現場じゃないと心理的安全性は生まれないですよね。

このワークを通して、話し手・聞き手・第三者がそれぞれどう感じるかを体験して、「今後は話をちゃんと聞こう」というのが現場に落とし込まれると、コミュニケーションの課題解決にもなります。

岩﨑:なるほど、めちゃくちゃいいワークですね。

幸福度が高いと生産性が30%向上。データで見るマインドフルネスの導入効果

岩﨑:組織にとってマインドフルネスは効果的、というお話を聞かせていただきましたが、具体的な事例は何かありますか?

井上:Googleがマインドフルネスを取り入れたことで注目が集まりました。Googleは世界で最初にマインドフルネスを正式に採用した会社と言われています。

Googleが求めていたのは、「マインドフルな組織を作ること」ではなく「心の豊かな組織を作ること」で、心の充実感が高い人たちが集まった組織を作るために、マインドフルネスを採用したそうです。

マインドフルネスを採用した会社は、従業員満足度が上がり、ウェルビーイング(Well-Being、社会や個人が良好な状態)で幸福度の高い従業員が増えています。そして、幸福度が高い人と低い人では、仕事における生産性、営業成績、創造性に明らかな差が出ていて、生産性においては30%も開きがあるというデータも出ています。

岩﨑:そんなに違うんですか。

井上:ということは、幸福度が低い人を4人採用するよりも、幸福度が高い人を3人採用した方が同等かそれ以上の生産性があると言えますね。

営業成績に関しても、幸福度が高い人の成績が、幸福度の低い人より37%高いというデータがあります。ちなみにこのデータで営業成績がよかったのは、営業1年目の従業員です。スキルの差ではなく、その人の幸福度が高いというだけで営業成績が向上するということです。

そして創造性は300%も違うというデータがあります。桁が1桁増えるんです。

岩﨑:300%とはすごいですね。1人で何人分もの創造性を持っているんですね。

井上:幸福度が高い人は、リスクを負えるから生産性・営業成績・創造性が高くなる、とも言われています。「これならやっても大丈夫だな」「もし失敗しても◯◯の方法で対応しよう」「ダメだったら別のやり方を考えよう」など、リスクを想定しつつもリカバリー策を持っている、失敗を恐れない、むしろ失敗を前向きに考えている人が多いです。

一方、幸福度が低い人は「失敗したら誰が責任取るの?」「それをやって何の意味があるの?」と、自縄自縛なマインドになりがちです。考え方の方向性がまったく違うので、300%の差が出るのも、あながち嘘ではないなと思います。

岩﨑:メタ分析の結果、30%高かったのは「平均して30%高かった」ということですね。ということは、幸福度の高い方はもっと数値が向上するということですね。

井上:昔は、ビジネスで成功したらその先に幸せがある。例えば、老後のセカンドライフが待っている、自由になれる、お給料が上がる、出世するという考え方が主流でした。

でも今回お話したデータが示したのは、「成功してから幸せになる」のではなく「今幸せだと成功する」ということです。生産性も高まるし、営業成績も高くなるし、創造性も発揮できる。だったら今幸せになって仕事で成功しようよ、と。

では、幸せになるにはどうしたらよいか。マインドフルネス、ギャラップ社が開発したストレングスファインダー、楽観的に物事を見られる方法など、いくつかの要素を組み合わせることで、全体のウェルビーイングが構築されます。ただ冒頭お話したように、土台となる“あり方”の部分は、マインドフルネスで整えるのが正解かなと思います。

岩﨑:実際に、メンタルが良い状態の組織と悪い状態の組織では、どのような違いが出てきますか?

井上:直接的にマインドフルネスが結びついているかは分かりませんが、とあるコンサルタントの方から、よい会社とそうではない会社の見分け方として、売上や規模だけでなく、オフィスに入ったときの雰囲気だ、というお話を聞いたことがあります。

言われてみれば確かにそうで、私も大手含めて色々な会社に研修で伺いますが、「みんな顔が淀んでるな」「目が死んでるな」と感じたことはたくさんありますよ。

そのような雰囲気の会社は、どんなに名の通った企業でもその後衰退していきます。一方で、非上場でもイノベーティブな会社だと、女性比率も高いし雰囲気がいいですね。

岩﨑:以前、帝国データバンクの方も同じことをお話していました。帝国データバンクは、一見すると数値だけ集めているように見えますが、実は営業担当が会社に訪問して雰囲気を見てくるそうです。数字は順調だけど雰囲気が悪いからダメになるだろうな、と感じ取ってくると聞きました。

井上:そうだと思いますよ。会社訪問した際に、「こんにちは」とか、普通は最低限挨拶しますよね。それが出来るか出来ないかでも、全然違うと思います。

全国大会出場が当たり前。強豪女子サッカー部の組織づくり

井上:組織の雰囲気と言えば、最近とても感動したことがありました。

先月、宇都宮文星女子高校(以下、文星女子)の女子サッカー部から、朝礼の中でモーニングセミナーをやるから30分くらい登壇してほしいと依頼をいただいたんです。でも私は文星女子のことも女子サッカー部のことも全然知らないので、「なんでこんな朝早くから行かなきゃいけないんだろう」と思いながらしぶしぶ行きました。

それなのに、現地に着いたら感動してしまって。サッカー部の皆さんが、朝からホウキを持って庭掃除をしているんです。そして「おはようございます!!」と透き通るような声で挨拶をしてくれました。

教室に入って30分くらいお話したときも、皆さんものすごく集中して聞いてくれて、後日とても丁寧な字で感謝のお手紙も届きました。

顧問の鈴木先生に、「火曜日はいつも庭掃除をするんですか?」と聞いたら、サッカーの練習をやるのは週1回・水曜だけで、月火木金は地域の清掃とかボランティア活動。近くの神社や公園などをひたすら清掃するだけなんだそうです。

なので「君たちのチームは強いの?」と聞いたら、「県大会優勝当たり前、全国大会に出て当たり前です」と言われました。

岩﨑:すごいですね。週1日しか練習しないのに全国大会が当たり前とは。

井上:それですっかりファンになってしまって、先日県大会の試合を観に行きました。1回戦だったので相手はそれほど強くなかったのですが、全然サッカーになっていなかったですもん。ずっと文星女子ボール。さらにすごいのが、相手チームは控え選手がベンチに座っているのに、文星女子は誰1人座っていないんです。動いて体を温めたり、声を出したりしているんですね。後日決勝戦も観に行ったのですが、それも完全にワンサイドゲームで圧勝でした。

何が言いたいかというと、雰囲気が素晴らしく、文星女子のサッカー部に完全にハートを掴まれました。岩﨑さんが朝早くても大丈夫でしたら今度紹介しますよ。お話するよりも見たらわかります。めちゃくちゃ感動しますよ。

組織作りは今、厳しくしすぎるとパワハラ、モラハラだって言われるので難しいですよね。でもひとつの例として、文星女子のようにガバナンスをかけてやっている組織もそれなりにいいんじゃないかな、と感じました。

岩﨑:文星女子サッカー部の皆さんは、なんでそんなにニコニコして毎週掃除ができるんでしょうか。

井上:なぜでしょう、喜んでもらえるからですかね。聞いてみたいですね。

岩﨑:その指導をしてる人にも聞いてみたいですよね、どうやってその組織や雰囲気を作っているのか。

井上:鈴木先生がどのような指導をしているかは、実は私も気になっていていつか直接伺ってみたいと思っています。

岩﨑:今はそういう風土が出来てるから、入部してすぐ受け入れられると思いますが、一番最初にやり始めたときは、ルールも風土もないですよね。そのときの話を聞いてみたいです。

井上:以前は、鈴木先生がモーニングセミナーをやっていたそうです。どのようにして文星女子サッカー部がここまで強豪になったのか聞いてみたいですね。

岩﨑:ぜひ伺いたいです。チームの雰囲気も1回見たいですね。

企業導入事例|丸井グループが実現した健康経営の効果

岩﨑:井上住職が携わった企業向け研修やセミナーで、どんな効果があったのか事例を伺いたいです。

井上:ショッピングセンターの丸井グループ様の事例を紹介します。マルイさんは何年か前に“健康経営”に舵を切りました。マルイの従業員、ショッピングビルの中にいるショップの店員向けに、空き倉庫室を瞑想ルームに変えたんです。

そして私が運営する「cokokuri」のマインドフルネス研修を導入いただきました。私たちの他にも、食事やコミュニケーションのスペシャリストなどを集め、“健康経営”の傘下に入れて数多くの研修を実施していました。その結果、マルイの株価が上昇したんです。

今までずっと、従業員を健康な状態にしよう、ウェルビーイングにしよう。そうすれば会社全体が力をつけるはず、と信じてマインドフルネスと向き合ってきましたが、数値で示せる結果がありませんでした。自分たちのマインドフルネス研修が株価上昇の一端を担うことができて、とても嬉しかったです。

岩﨑:なぜマルイさんで、そのような結果が出たのでしょうか。

井上:マルイの担当の方が本気だった。それに尽きると思います。打ち合わせでは質問や要望をたくさんお話してくれて、とても前のめりに取り組んでいらっしゃいました。

当時の担当の方は、マルイ全体での研修が終わったあと、「自分でもマインドフルネスを教えられるようになりたい」と、私が開催していた講座に個人的に申し込んでくれました。これは特殊な例かもしれませんが、そこまでの熱意を持っている方が担当だったからこそ、株価上昇にも繋がったと思います。

次回は、マインドフルネスの実践方法、導入するときのポイントを紹介します

お話を聞いた方:井上広法さん(Kobo Inoue)

浄土宗光琳寺 住職
宇都宮共和大学非常勤講師/株式会社TANEBI 取締役


創建600年の光琳寺を拠点に、「ともにいきぬく」をミッションに掲げ、ひとづくり、緑づくり、まちづくりを目指している。2016年には、マインドフルネスを基盤としたベンチャー企業を設立。ビジネスパーソン向けプログラム「cocokuri」をスタートアップし、ANA、メルカリ、JTなどの企業でマインドフルネスを伝えている。

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